転学制度を活用しよう

アメリカでは大学在学中に他の大学に移籍できる

日本の常識では、一度入学したらその大学で卒業をめざすのは当たり前ですよね。もしも他の大学に入り直したいのであれば、新入生としてもう一度受験をするか、若干名しか合格枠の無い編入試験に合格するかというのが一般的です。ですから、大学受験の段階でどこの大学に合格するかはとても大事ですし、社会に出てからの再入学のチャンスは非常に狭いがゆえに、「どこの大学に入学できたか」はある意味で一生ついて回る評価にもなってしまいます。

しかしアメリカでは、30単位など一定以上の単位数を持っている学生であれば、成績次第で他の大学に移籍をすることができる制度が整備されており、これをTransfer(転学)と呼びます

仮に日本でも、大学時代のがんばりによって、有名大学に再チャレンジできると言われたら、どう思いますか?残念ながら第一志望に落ちてしまい、不本意ながらも受験当時の学力で入学できる大学に入ったとしても、まだまだやり直しの機会がありますし、やる気もわいてくることでしょう。もちろん、転学は入試のリベンジだけではありません。どんな場面でこの転学制度を活用することができるのでしょうか?解説していきましょう。

そもそもアメリカの大学の入学審査で必要な要素は?

まず、転学を考える前にアメリカの大学の入学審査について簡単に触れておきましょう。アメリカの大学では、主に以下の点をチェックして合否判定をしています。

高校の成績のチェック

高校の成績については、日々の努力や、与えられた環境でどのくらいがんばり、どのような結果が出せるのかという点のチェックの意味があります。どの大学であっても、GPA(Grade Point Average)と呼ばれる評定平均で主に確認しますし、出願条件として、GPAに加えて履修科目数や教科ごとの評価についても一定の基準を設けている大学(例:"数学を最低3科目以上履修"、"理科で評価C以上")などもあります。簡単に言えば「まじめに努力し、結果が出せる」学生かどうかを確認していることになります。大学生の場合も、大学と高校の両方のGPAを確認します。

GPAの計算については、(長くなるので)また別の機会に説明をします。ここでは「評定平均が高いほうが大学の選択幅が広がる」という理解をしておいてください。

学力の達成度のチェック

学力の達成度チェックについては、アメリカの高校生の場合、SATやACTといった全米共通学力テストのスコアを提出します。テスト内容の詳細は省きますが、高校の評定だけでは測れない、学力の絶対値をこちらで確認することで、高校そのものへの評価をしなくても学生の学力状態を確認できるわけです。なお、留学生にはこれらのテストスコア提出は課されない大学が多くなりますが、その代わりに合格後、大学の正規授業受講前に学力テストが実施され、不十分な場合は卒業単位にならない補習授業を受ける義務が課されたりします。

NCNでは受験生に一般の模擬試験の結果や、受験後の場合は大学共通テストの結果などの提出を求め、アメリカの大学に代わってより正確を期した入学審査を行っています。

英語力の扱いは?

留学生の入学審査の場合、英語力については「最低授業についていけるのに必要な英語力を持っている」という証明として、一定水準以上のTOEFLやIELTSなどのスコア提出を求めています。「英語ができるから入学審査に有利になる」ということは原則ありません。大学の要求GPAに若干足りない場合に、交渉材料として使うことはありますが、入学基準から大きくかけ離れているGPAを補完するほどの要素にはなりません。しかし、もちろん留学生にとっては英語力は最低要件のひとつですし、余裕があればより授業が理解でき、参加もしやすくなり、それが大学の授業評価につながりますから、英語力は可能な限り高めていきましょう

入学審査でGPAが足りない場合は入学後に転学を考える

上記の入学基準の中で、数字として最も大切なのは、やはりGPAです。どんな進学校であっても、学力があったとしても、GPAの数字が入学したい大学の基準に達していなければ原則、入学することはできません。これから改善の時間がある高校1・2年生の皆さんや、大学入学初期の皆さんは、ぜひ日々の学校や大学での学習を大切にして、GPAを上げる努力をしてください

一方、GPAとは全学年全教科の評定平均だけに、例えば高2までの成績が思わしくない場合、高3で改善しても限界があるのも確かです。このような場合、まずは現状のGPAで入学できる大学を選択し、大学進学後の成績によって本来行きたかった大学に転学を狙うプランは有力な方法です。

転学の際の入学基準は?

入学後、通常1~2年経過後に希望者は転学の申請を希望先の大学に提出します。

転学における入学審査は、主に進学後のアメリカの大学のGPAにより決まります。高校の成績も提出を求められますが、審査の比重としては大学GPAの方がはるかに大きくなります。それは、大学に入る際に上記のような審査を行っている以上、「◯◯大学で、優秀なGPAが取れている」という結果だけで、審査としては十分だからです。

そのような意味では、転学の際には大学の名前も評価のうちということにもなります。従って、例えば標準的な大学(日本で言うところの一般的な地方国立大学くらい)で優秀な成績を挙げていても、よほど飛び抜けた優秀さを示せなければ、いきなり世界レベルのトップスクールに転学できる可能性はかなり低いことは現実としてお伝えしておきます。もしも仮に入学できたとしても、内容や議論についていけない可能性が高いでしょう。まずは世界で通用する実力をつけることを考えましょう。

この場合は、転学先に各州上位の州立大学に転学、そこでさらに結果を出して、大学院でトップスクール入学をめざすという作戦がおすすめです。大学院でのトップスクール入学については、また別の機会に詳しくお伝えしたいと思います。

転学はどのくらい難しい?

実際、NCN米国大学機構でアメリカの大学に入学した7,000名以上の学生のうち、転学を経験している学生は全体の20%程度です。最初から希望の大学に入学できている学生や、留学前は転学も考えていたけれど、入学した大学で最終的に満足した学生も一定の割合がいることを考えると、20%という数字はとても大きな数字だと思います。

留学当初は基礎科目や教養科目を中心に履修し、およそ7〜8割のNCN学生はGPA3.0以上をマークしています。オールAでGPA4.0が満点なので、GPA3.0以上はきちんと取れているレベル、3.5以上は成績優秀者となります。またGPA4.0で1年目を終える学生も珍しくありません。

ですから、課題をしっかりこなす、授業にも積極的に参加する、テスト対策も怠らないなど、最低限やるべきことをきちんとできる学生であれば、GPAを取り、転学すること自体は極端に難しいことではないのです。

安易な転学は禁物!

他方、転学後に予想を超える授業のレベル差に圧倒される学生も多いという現実があります。例えば日本の平均程度の学力の高校生が、ある日、急に超進学校の授業に放り込まれたらどうなるか、と考えれば伝わるかもしれません。

日本の旧帝大レベルの国立大学の学生が、アメリカの州トップの大学に編入をした際に感想を聞いたところ、「議論のレベルも違うし、ものすごく大変」という感想を漏らしていました。幸い、その学生はとても努力家で、最終的にはGPA3.5以上の成績優秀者として卒業に至り、有名商社に就職ができました。最終的には月並みながら努力次第なのです。

しかし中には勇んで転学したものの、成績が全く上がらず、打ちのめされて元の大学に再転学した事例もあります。この学生については、事前に学内で指導をするNCNの日本人アドバイザーからは、「成績自体は悪く無いものの、英語力もまだ不十分で、もう少し実力をつけてからにしたほうが良い」とアドバイスしました。しかし早く上に行きたいという気持ちが勝ちすぎて、助言を無視して転学を強行してしまった結果、このような事態になってしまいました。

とはいえ、最終的にはその学生は元の在籍大学で良好な成績で卒業していきました。上のレベルを見て、自分の実力を実感したことで、かえって地に足をつけて学ぶことができたのが良い結果につながったという事例でもあります。

転学ありきではなく、力をつけられた結果、転学が実現する

一般的には正規授業1年目終了時はやや慌ただしく、専門分野もごく入門レベルしか学ばない時期ですので、その時点で良い成績が取れても、2年目も同様に良い成績が取れるかは見極めが難しい時期です。そのような意味では、大学2年終了時点での転学が区切りの良いタイミングで、失敗の確率が少ないと言えます。もちろん状況には個人差がありますし、専攻により異なる部分もありますので、大学内のNCNアドバイザーとよく相談しながら進めるのが成功の第一歩でしょう。

そして、転学で上へ上へと考える以前に一番大切なことは、現状の与えられた環境で全力を尽くせるかどうかということです。前述の通り、実力が伴わなくては転学できても通用しないということを忘れてはなりません。

例えばスポーツの世界で地区大会、都道府県予選、全国大会、アジア大会、世界大会と進むごとに二次曲線的にレベルが上がっていくのと同じように、有名大学になるほど必要な学力レベルが上がっていきます。そしてその頂点であるアイビーリーグをはじめとするトップスクールは「大学の世界のW杯」くらいに考えておくべきです。世界レベルで戦うには、尋常では無い努力が必要ですし、厳しく言えば、努力だけでは通用しない可能性も高い場所です。謙虚かつ冷静に自分の今の実力を見つめた上で転学を検討しましょう。

専攻分野で決める転学

大学の知名度も大事ではある一方、専門分野を究めるための転学もあります。

あなたが大学で専門分野を学んでいく中で知識を得て、経験を積み、より細かい希望分野や興味を持った学問・研究領域ができたとします。その分野において進んだ研究をしている、あるいは有名な先生がいるといった大学に転学を考えるというものです。

このケースは、より実際の学問分野に即した転学となりますし、情報収集をした上での選択ですので、最終的な満足度は非常に高いでしょう。こういった転学については、大学の担当教授とも相談しながら進めることになります。

また多くの分野においては、詳細な研究分野を扱うのは大学院以降になるということもあり、大学院進学と並行して検討していくことになるでしょう。

費用を節約するための転学

アメリカの大学は上位大学ほど学費が高い

アメリカの大学の分かりやすく、またちょっと不思議なことは、「上位の大学になるほど、学費が高くなる」という法則です。例えば州立大学の場合、各州の予算配分や物価の都合で、地域による費用の差というものはあるものの、奨学金など個人差の出る部分を除外した場合、基本的に同じ州の中で、最上位の研究型大学が標準的な大学よりも学費が経済的になるケースはありません。

著名な教授を雇用する、充実した設備を誇る各種施設を揃えるなど、上位と言われるだけの環境を整えることは、すなわち予算のかかることですから、その分が学費に反映されていると考えれば不思議ではない一方、日本の大学では国公立大と私立でそれぞれある程度横並びの学費になっていますから、日本とは感覚が違う部分とも言えるでしょう。逆にアメリカでは日本の大学ほど、学部や専攻ごとに授業料が違うということはありません(航空学など実習費用が大きくかかる専攻はあります)。

最後に結果を出すことを考えよう

ここで考えたいのは、入学当初の初級の授業や教養科目を学ぶ段階で、ハイレベルな環境が必要なのかどうかという点です。

大学が変われば集まってくる学生の学力レベルが変わり、より刺激的な議論ができますし、選べる限り最高の環境を求めるのであれば、初めから上位大学にこだわることは相応の意味のあることです。また、そもそも必ず転学できるとも限りません。しかし、保護者の方のご予算も無限ではありませんし、あくまで私たちの経験に基づく考え方ではありますが、ある程度コストパフォーマンス重視で進路選択をしても、着実な努力のできる学生であれば最終結果に大きな違いは無いとNCNでは考えています。

日本の大学の評価ではどの大学に入ったかという点が重視されますが、アメリカでは最終学歴の方が価値があり、結果を出した人間が評価されます。州立大学で努力した結果、トップスクールの大学院に授業料免除など多額の奨学金を支給されて進学するといったケースは、NCN学生の中でもこれまで多数の事例があります。入学重視の日本の大学受験の感覚から、アメリカのゴール重視の感覚に変えて留学プランを考えてみることも検討してみましょう。

NCN特別奨学金適用大学の活用

そういったゴール重視の進路選択において、大きく活用できるのがNCN特別奨学金制度です。私たちの受入大学の中で、授業料減免や固定の奨学金を支給してくれるこの制度を運用する大学は11大学あり、ほとんどの学生が奨学金支給大学を最初に検討しています。これらの大学は各州上位の州立大学で、卒業まで在籍しても非常に満足できる大学である一方、さらに上位大学をめざして転学を視野に1~2年目の単位を履修するために在籍している学生も多く存在します。

NCN特別奨学金 実施大学間での転学もできる

誤解されがちな部分ですが、NCN米国大学機構の日本人学生受入制度において、初期の進学先は受入39大学の中から選択する必要がある一方、転学先については全く制限はありません。従って、NCN特別奨学金を受給し、留学前半の費用を抑えつつ、3年目あたりに上位の授業料がかかる大学に転学をしていくというプランも現実的に検討できます。

一般的に東部や西海岸の大学は、中央部地域の大学に比べると授業料・生活費が高くなる傾向があります。NCN特別奨学金実施大学はすべて中央部地域の大学になりますが、これらの大学からニューヨークやカリフォルニアなどの大学に転学した実績は豊富にあります。

また、特別奨学金実施大学にはアーカンソー大学(州立)をはじめとする州トップクラスの州立大学もあり、NCN学生が他の受入大学から転学をした際にも奨学金が適用されます。ですから、奨学金実施大学間での転学もおすすめです。

奨学金実施大学や実際の費用については関連記事をご参照ください。ぜひ転学制度を活用して、アメリカンドリームをつかみ、より有意義な大学留学を実現しましょう。

text by Kosuke Hori(入学審査室長)

この記事のまとめ

  • 受験時に成績が足りない場合は、アメリカで地力をつけ、転学を視野に入れよう
  • 入学1~2年後に上位大学への転学を積極的に考えてみよう
  • 専攻分野を極めるためにも転学を活用しよう
  • 転学制度があることを考えると、入学時の大学の名前にこだわりすぎる必要は無し
  • 費用対策としてNCN特別奨学金実施大学に進学してからの転学も検討してみよう